応急・緊急処置
(これは、平成12年9月8日に水戸市立浜田小学校で講演したものです)
応急処置にも外科的なものと、内科的なものがありますが、今回、外科的な話を中心に、皆さんが遭遇するであろうケガと、私共に来院したときに、ちょっとこれは困るなと思うことを述べていきたいと思います。
順番として、けがをして出血するような「創傷」、次に、捻挫・骨折などの総論的なことを話した後、その他に遭遇することの多い鼻血や、マメ、突き指などの話し、部位別の注意などを話していきたいと思います。
そして、略語として使用するABCとRICEを理解していただきたいと思います。
1.<創傷>
何かに擦ったり、切ったり、ぶつかったり、踏まれたり、転んだりして、皮膚に「きず」ができたとき、これを創傷と呼びます。創傷はその起こり方や傷の状態から、擦過傷(表皮剥脱)、挫創、切創、裂創、刺創、断裂創などに分けられます。
いずれの場合も応急・緊急処置として、感染症防止のため傷口の洗浄、洗うことが第1です。医療機関においては、汚れたキズの場合、ブラシや歯ブラシで傷口を洗うことはよく行われます。
近頃のお父さんやお母さんは、子供が痛がることは避けようとして、痛がることはせずに、「キズドライ」などをかけてほっとかれて、あとで治らずあわてて来院する方が多いです。
あえて、この場でひとこと言わせて頂きたいのは、傷に「キズドライ」は使うな、傷やお尻の病気に「オロナイン」は使うなと大声で言わせて頂きます。なぜと言われても、悪くするだけだからという解答になります。また、「あかちん」「ヨードチンキ」を保有していらっしゃる方がおられ、それをかけてくる方もいますが、これもやめてください。キズの様子がわからなかったり、それを落とすのに痛い思いをしなければならなくなることがあります。
次に、キズの部位の止血とキズを覆うために、ガーゼなどで圧迫することになりますが、このときティッシュペーパーや脱脂綿は使用しないでください。きずの中にその繊維が残っていて困ることがあります。
次に、縫わなければならない傷のめやすとしては、深い傷や、切れた端と端が離れて接触することが難しいと考えられる場合です。このような場合、できるだけ早く医療機関で診察してもらうことが望ましいのですが、どうしても時間的に難しい場合、12時間以内に診察するようにし、その間、清潔にして圧迫止血しておくようにします。決して、いろいろな軟膏や油、薬剤を付けないように。また、バンドエイドのような創被覆剤は、創部をむらして傷の治りを遅らせることがあるので注意してください。
このごろ、縫合するとき、後で抜かなくていい糸で縫ってほしいと言われることがあるのですが、後で抜かなくていい糸とは吸収糸といって、炎症反応を起こすことによって組織内に埋没したかのようにするもので、皮膚などの表面に使用するとケロイドのような傷跡をのこす可能性があり、使用出来ません。
キズに対しては、まず洗うこと、次にきれいな布やガーゼで圧迫すること、そして医療機関へ行くこと、これが重要です。
2.<とげ>
次に、トゲの話をします。トゲをさせば、何とか抜きたい、やったけど抜けないから医療機関へ行くという流れはわかるのですが、私どもから言わせてもらうと、抜かないでそのまま来院してほしいということです。皮膚の下に入ってしまった状態では、金属系のものでしたらレントゲンで存在部位がわかるのですが、木材のようなものではわかりません。そうなると、差し口近くを切開して探すことになるわけですが、これがなかなか大変なことがあります。すぐに取れるものは良いのですが、出てこなくていろいろ操作すると絶対出てこなくなってしまいます。その場合、皮膚に出口、つまり切開したままにしておくと、数日して取り出せることがあります。しかし、このようにするとその医者はヤブと言われ不信感を持って別の医者に行くことになるからです。それと、トゲがしだいに血管の中に入って心臓などへ行くなどということはありません。
3.<蜂に刺されたとき>
過去に蜂に刺されてショックを起こしたことがある人は直ちに病院へ行ってください。死にいたるような最悪の状態は15分位で出現してしまいます。そのようなことがなければ、@針があればぬく、A水で洗う、毒を洗い流す効果と血管収縮させて拡散防止する効果が期待できます、B冷やしながら病院へ行きましょう。ついでに言っておきますが、蜂の毒にはアンモニアは効果ありません。アンモニアのために皮膚がかぶれてそれを蜂のせいにして来院する方が多いので覚えておいてください。
4.<整形外科的な外傷>
この分野の話しとしては、捻挫、脱臼、骨折、靱帯や腱の断裂、肉離れ、突指(捻挫、骨折、靱帯や腱の断裂含む)が上げられます。また、やりすぎで起こるスポーツ障害として、疲労性骨折、ジャンパー膝、野球肩、テニス肘、踵骨骨端症、オスグット病などがあります。各疾患の病理学的、解剖学的説明は避けますが、すべての応急処置はRICEと英語で略されている方法につきます。
Rest(安静):痛めた部位を固定します。
Ice(冷却):痛めた部位をひやします。
Compression(圧迫):出血や腫脹の防止のため痛めた部位を圧迫します。
Elevation(挙上):痛めた部位を高く上げます。
Specialist(専門家):それから医療機関へ行くようにしましょう。
それと、皆さんは、捻挫や突き指において、医師の判断することより、レントゲンを重要視され、写真上、大丈夫なら安心してしまったりしますが、捻挫でも骨折より長く治療が必要なこともありますし、突き指でも、手術が必要になることもあります。
突き指の話しが出ましたので、大声で言っておかなければならないことに、「突き指では指を絶対引っ張るな」があります。だれが、言い出したかわかりませんが、ちまたの嘘の常識です。私は経験ありませんが、このために手術が必要になった例は数多いそうです。
次に、骨折よりもやっかいなのに、軽く見られている脱臼のことを話します。本来ある場所からずれるということは、関節包を障害していますので、脱臼も整復後、一定期間固定しないと習慣性脱臼となることがあります。部位で違いますが、肩関節では、最低1ヶ月の期間を考えなければなりません。整復すれば大丈夫ということはありません。
続きまして、骨折の話しに移ります。
小児骨折で多いのは、鎖骨、上腕骨(特に肘付近)、前腕骨、下腿骨、手指骨と言われています。たとえば、ドッヂボール、バスケットボール、ポートボールでは手指骨骨折、サッカーでは前腕骨、手首、肘など、跳び箱・鉄棒では、前腕、上腕、手などです。
骨折をすると激しい痛み、腫れる、変形する、皮膚の色が変わる、骨折部より先が動かせないなどの症状が起こります。
応急処置としては、冷やすことと、痛くない位置で固定し、病院へ向かうこととなります。ここで冷やす手段として、最も良いのは氷等です。冷湿布や、ネツサマシートはあまり効果がありません。
また、余談になりますが、複雑骨折とは、骨が粉砕されて複雑に折れていることではなくて、皮膚を突き破ったりして外界と骨折面が接触している状態を言います。
子供が良く訴えることに、踵痛とか、足痛があります。この原因の中に、疲労性骨折というものががあります。これは、針金を何回も曲げ伸ばししていると、ついには折れてしまうのとにている現象です。
発育期の十分な筋力や骨ができていないとき、短期間に集中的なことを繰り返すと起こる骨折です。レントゲン上は、すぐは変化起こらなくて、1〜2週ごに骨膜反応が出て分かることがあります。
治療としては、原因の運動を3〜4週間中止します。日常生活制限はいりません。また、外固定必要もありません。
5.<部位別な話し>
A.頭部打撲
何らかの頭部への外傷があったとき、一番重要なことは、意識障害があるかどうかです。
そのときチェックする項目は@名前、生年月日が言えるか、Aまっすぐ歩けるか、B手足をつねって反応があるかどうか(意識障害か寝ているのかわからないときもつねってみる)、C顔色はどうか、D麻痺があるかどうか、けいれんはどうか、E鼻や耳から浸出液がでているかどうかです。これらに該当する場合は、すぐに脳外科へ連絡しましょう。
これらに異常がなく、3〜5時間が経過していれば心配ないでしょう(老人の場合は、慢性的な経過をとることもまれにあるので1ヶ月異常がないかどうか見守る必要があります)。CT検査も万能でなく、幼児では動いて検査にならないこともあります。上記のことを考えながら3〜5時間様子をみてください。
単なるコブは、ぬれタオルなどで冷やすだけで大丈夫です。
B.眼;異物、打撲、損傷
異物や薬品等が入ったらば、まず洗うこと(水道をちょろちょろ出したり、コップややかんなどを使用して)。視野や違和感の確認、幼児の場合TVや絵本の読み方に異常が無いかどうか、見て角膜や結膜に異常があるときは、眼科へ行ってください。眼球の動きがおかしいときは眼窩骨折も考えて直ちに眼科へ行きましょう。
コメカミあたりをぶつけて、涙があふれるようなことが続く場合、鼻涙管損傷も考えられます、専門医に見てもらいましょう。
C.耳・鼻
打撲などで、鼓膜が破れても程度によってイロイロです。耳鼻科の先生と相談してください。
鼻部の打撲で、明らかな外見上の変形がある場合は、耳鼻科へ行きましょう。
鼻出血は、いろいろな見解があるようですが、小鼻を10分位押さえる、うなじをたたかないということは一致しているようです。私個人としてはあおむけで寝せて、冷やしたり圧迫したりしているほうが良いと思うのですが、血を飲み込んで気持ち悪くなるため、イスに座らせ少し前方を見る姿勢をとり、口内の出血は外へ出したほうがよいとする意見や、脱脂綿を詰めると再出血のおそれや、化膿の原因になるとの意見もあります。
30分続く出血や、噴水のような出血でない限り、必ず止まりますので、あわてないようにしましょう。
D.口腔内
口腔内の傷は、治りが早いですが、当初より腫脹が著名です。
歯芽欠損時などは、牛乳の中につけたり、口の中に入れて歯科へ行きましょう。
E.胸部打撲、肋骨骨折
肋骨など胸部の骨は、軟骨が多くレントゲン撮影でははっきりした画像診断ができないことが多いです。そして、たいした傷害でなくても、治るのに2〜3週間かかるケースが多いです。
F.肘関節
子供の肘関節周囲の骨折は、手術が必要になることが多いことを知っておいてください。
G.指
指などの断裂は、親指や人差し指が断裂したような場合はマイクロサージャリーが必要となります。水戸では国立病院か済生会病院で出来ます。指先だけが取れてしまったような場合、大人では無理でも子供の場合は縫い合わせるだけで大丈夫な場合もあります。いずれの場合も断裂部を冷やして医療機関へすぐにいくことです。
爪下出血は打撲や、ドアにはさんだりしたとき起こりますが、ひどいときでも針をさして血をぬけば痛みは和らぎます。
陥入爪は、軽度ならば、消毒と抗生剤投与でいいですが、不良肉芽が出現したり、膿が出るようでは、一部爪を切除しなければ治らないことがあります。
指先などを包丁などでそいでしまったような場合、皮膚欠損といいますが、出血がひどくびっくりされますが、この場合はガーゼで圧迫止血をし、止血したかどうか、そのガーゼをとって確認するようなことはせず、最初のガーゼにしみてきたら、次のガーゼを上に追加していくようにしてください。
まめ(肉刺)は、水ぶくれが起こる位置によって、程度が分類されますが、清潔にして、保護してやることが重要です。水疱は針などで刺して水を抜きましょう。
H.背中
子供の背部痛や、腰痛は筋肉痛か腰椎分離症のことが多いです。まれに、精神的なことから起こる物もあります。ときどき訴えたり、激しいスポーツのあとだけだったり、継続しないようならば、様子を見ていて良いと思いますが、2〜3週続いたり、何回も繰り返すようなら、整形外科へ相談しましょう。
I.股関節
股関節痛を訴えることも、多いい症状の一つですが、冷やしたりして経過を見て、2〜3週続いたり、何回も繰り返すようなら、整形外科へ相談しましょう。
J.膝関節
子供においても、一時的なものであれば疲労性などのことが考えられますが、腫脹があったり、出血傾向があれば、まれですが全身疾患の可能性もあります。
関節のちょっと下の全面が痛がる時は、オスグット病と言って骨の成長段階における炎症の可能性が大です。この場合は、無理な運動をせず、正座もしないようにしていれば、成長の過程で治ります。
運動時に、急に膝関節が動かなくなることがあります。これをlooking Kneeとかタナ症状と言ったりしますが、RICEにて経過をみて、だめな場合は整形外科を受診する必要があります。
K.アキレス腱
子供より大人の方が注意が必要なものに、アキレス腱断裂があります。
体育の日や地区運動会などのとき、必ずと言っていいほどどなたかが、犠牲になっています。現在、手術しなくてもギプス固定などで治ることもありますが、いずれにしても固定期間が6〜8週、運動などに復帰できるのは、早くて半年後と考えてください。
6.救急蘇生法ABC
9月9日の救急の日近くになると、いろいろなメディアから心肺蘇生のABCという話を目にすることがあると思います。詳細は説明書を見てもらうとして概略は、
Airway(気道確保)

頭部後屈と項部挙上 頭部後屈と顎部挙上

下顎挙上 口に入れた手指による下顎引き上げ
Breathing(人工呼吸)

気道確保後、大口で患者の口を覆い、上腹部を見ながら息を吹き込む
Circulation(心マッサージ)

救助者が2人の場合、心マッサージと人工呼吸を分担し、5:1の比率で連続して行う。
もしも、このような場面に遭遇した場合は、まず大声を出して、人を呼ぶことです。救急処置の研修を受けていても、なかなか実践できるものではありません。多くの人を呼んで、救急隊を呼ばせたり、体位を変えたり、安全な位置に移動したりするのに人を集めることが重要です。